2019年01月20日

STREET SONGS

STREET SONGS

1990年、バブル絶頂期の新宿。
スタジオアルタ前では、着飾った男女で溢れ、金とSEXの匂いで充満していた。
眠らない街東京、尽きることのない欲望、地位と権力に依存する人々・・・。
ギラギラしていた時代だ。
フェラーリ、メルセデス、ポルシェ、ジャガー・・・・高級車の交通渋滞。
クラクション、『ばかやろ!』という怒鳴り声、サイドシートでペティキュアを塗りなおす女・・・。
アルマーニ、ルイビトン、プラダ、フェラガモ・・・。
あぶく銭を手にした人にだけに訪れる成功。
あぶく銭を手にできなかった人は・・・・・虫けらのごとく、地べた這いずり回る。
そんな時代のそんな街。
1990年の新宿。



横文字バブルフレーズが飛び交う、新宿アルタ前から西側に向かう通路で、彼は歌っていた。
当たり前のように、多くの人たちは、彼の歌に、耳を傾けることはなかった。
彼は、行きかう人の波に向かって、歌っていた。
たぶん20代前半だろう。
長髪で、『LOVE』と書かれたTシャツに破れたジーンズを履いていた。
前には、ギターケースが広げられて、中には、10円や50円が数枚投げ込まれていた。
彼が、歌い終わっても拍手などない。
誰も彼の前で立ち止まろうとはしない。
人の波は、彼の存在など、気にもとめない。
東京のどこにでもある風景。
金にならない才能には、見向きもしない群衆。




そんな彼の歌の前で、足を止めたのは、どうしてなんだろうか?
興味、好奇心、俺も音楽をやっているという同業者的意識?
いやいや、そんな難しいことじゃなくて・・・。
俺も若かったし、知らない街だし、特に予定もないし・・・と、そんな感情だったろう。



彼は、何曲かオリジナルを歌ったと思う。
覚えているタイトルは、『灰色の街に、蛍の光を』、だと、思ったけど・・・。
それほど胸に突き刺さる歌でもなければ、別段、耳をふさぎたくなるような歌でもない。
普通だ。
若いお兄ちゃんが、自己陶酔しながら、思いを吐き出している・・・・と、そんな感じかな?
俺は、彼の前で足を止め、最後までそのライブに付き合った。



残念ながら・・・後の曲は・・・・覚えてないな・・・・・。
1990年の話だし、それから、ずいぶんと時が流れたわけだし・・・。






彼は、最後の曲を歌い終えると、俺に向かって『・・・聞いてくれてありがとうございます・・』と、お礼を言った。
俺は、一人で拍手した。
そして、100円を二枚、ギターケースに入れた。
『・・・いつも、ここで、歌っているんですか?‥』と、声をかけてみた。
『・・・はい、でも、今夜で最後なんです、僕、卒業が近いんで…』
『大学?』
『はい、就職もあるし、もうできないと思うから・・』
『また、仕事に慣れたら、こうやって歌えばいいんじゃないの?・・』
『会社は甘くないと思うし、それに・・・僕、新宿で歌っていたっていう、思い出だけでいいですから・・・』
『なんか、もったいないな・・・』
『僕みたいな歌うたいが、この街には、腐るほどいますから・・・』
そんな会話の後、彼はギターケースを抱え、新宿駅に消えていった。
ギターを背に、人込みの中に消えていった・・・。





と、それだけの話なんだけど・・・・。





ふと、『歌うたいの彼』のことを思い出すことがある。
たぶん、現在は、40代半ばになっているはずだし、家族を持っているかもしれない。
その後、路上で歌うことはなかったのだろうか?
『新宿で歌っていた思い出』だけで、その後、音楽にケリをつけることができたのだろうか?
子供に、『お父さんは昔、新宿で路上ライブやっていたんだよ・・・』なんて、自慢しているのだろうか?


と、そんなことを考える。



いろんな人が音楽に出会い、何らかの理由で、足を洗うわけだけど、やれる環境にある人、やりたい人、できる人は、ずっとやってほしいな。
簡単なことだと思う。
頭の中を空っぽにして、アカペラで歌えばいいのだからさ・・・。




今夜も、世界中の街の片隅で、いろんな歌や、いろんな楽器が鳴り響いてる。
これから先も、ずっと、続いてゆくのだろうね・・・・。



STREET SONGS


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成原。









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Posted by LOSSTA at 21:18│Comments(0)成原
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